今後ITが発達するにしたがって、士業の仕事がなくなるといわれています。
日本でもe-taxやマイナンバーカードによって国民と行政との距離を近く、簡潔にしていこうとしています。
我々、士業が入る隙間がどんどん減っていくように思います。
しかし、日本においては行政書士や税理士、他の士業が食べていけなくなるほど仕事が減るようには考えられません。
実務を通してみた、世の中とこれからの予想を考えていきます。
ITに取られる仕事
一般的にITによって無くなる仕事は、書類の作成や事務作業といわれています。
簡単なフォーマットに資料を見ながら入力すれば、自動的に書類を作成し、提出までできるシステムが普及し始めています。
確定申告のe-taxが代表的です。
利用率が年々増加しており、平成28年が53%、令和元年が59.9%と徐々に浸透してきています。
個人事業主の方で自分で確定申告しているも多いのではないでしょうか。
※税理士の代理送信や、税務署でのサポートも含まれています。
計算や書類作成が一番ITに取られやすい仕事です。
事務を代行する行政書士も無くなる仕事の1つとされています。
ITによって無くならない仕事
介護やカウンセラーなどの人とのコミュニケーションが必要なものが残るといわれています。
ITは人の感情を感じたり、適切な返答をすることがまだできません。
コンピュータはあらかじめ決められた内容しか行うことができず、その都度適切に対応することが苦手です。
税理士や会計士が一番なくなるといわれている
一番最初に無くなる職業が、税理士や会計士といわれています。
私たちにとってはかなり専門的で、代替のきかない存在のように思いますが、実はそうではありません。
日本は税制度が複雑で一般人が理解するにはかなり大変にできています。
しかし、将来的に税制度が簡素化され、簡単なシステムで構築される可能性もあります。
実際に、エストニアでは簡単に税金の申請ができ税理士の仕事が変わったようです。
エストニアでは税理士はマルチプレイヤー
たびたび記事でみますが、エストニアには税理士がいなくなったというのはデマだそうです。
エストニアにも税理士はちゃんといます。
しかし、日本と比べて電子政府化が進み、個人でも税の申告が非常に簡単にできるようになっていて、単純に税金の代理申請だけを仕事にしている人は減ってきているとか。
その代わり、コンサルティング業などの経営者と密になる関係にシフトチェンジしてきています。
なぜ、電子政府化が進んだのか
エストニアは世界的に見てアメリカや中国、そのほかのヨーロッパ諸国のように経済大国ではなく、GDPでみても日本の6割ほどです。
人口の少なさ
エストニアは九州ほどの面積に、福岡市(154万人)ほどの人が住んでいます。
住んでいつ地域も離れていたり、島に居住する人もいることからすべての人に行政サービスをしようと思うと、そこここに役所や税務署を作る必要があります。
行政サービスを維持するために、離れた場所や島々に役所を作ると人件費や建物の維持費などのコストがかかります。
国土が広く人口が少ない国は行政に負担がかかる場合が多いです。
それを解決する方法が電子政府です。
国民一人一人にIDを発行し、行政のいろんなサービスをネットだけで完結することができます。
いちいち役所に行って、紙の証明書を発行してもらう機会が大幅に削減されています。
国民は預金残高まで把握されている
エストニアでは行政サービスだけではなく、約3,000種類ほどの機能が備わっているそうです。
運転免許証、お薬手帳、ポイントカード等、官民両方のデータが詰め込まれています。
さらに銀行口座も紐づけされていて、納税額の計算から納付まで簡単に済ますことができます。
逆に考えれば、政府に預金残高や使用歴を把握されているということです。
日本もエストニアみたいにすべてが電子化するのか
日本もエストニアのように電子化が進むのでしょうか。
今後、政府が推し進めているマイナンバー制度が普及すればなるかもしれません。
しかし、実情は受けられるサービスが少なく、e-taxや住民票、戸籍謄本等の取得ができる程度。
今後は運転免許証や国家資格も内蔵していく予定です。
国民全員でみると、マイナンバーカードの普及率も低く15%ほどです(https://www.soumu.go.jp/main_content/000665763.pdf)。
エストニアでは手続きが簡単
エストニアが電子政府に成功した要因の一つに制度の簡素化という点があります。
99%の行政サービスを「個人カード」で行うことができ、デジタル化されていないのは結婚、離婚、不動産の売却。
その他にも下記の項目がポータルサイトで確認することができる。
氏名
生年月日
住所
納税額
学歴病歴犯罪歴
申請できることも多岐にわたる
確定申告
企業の登記申請
通院や病歴情報(病院間で共有できる)
大学の入学所申請
(参考https://iotnews.jp/archives/140870)
このようにエストニアでは、個人情報が簡単にアクセスでき、その情報を基に各種申請を行うことができる仕組みが出来上がっています。
これは、国を挙げて電子政府に取り組み、申請や税制度を簡単にし、国民全員にわかりやすいように作られているから成立しています。
一方日本の場合はどうでしょうか。
都道府県毎に異なる申請
日本の行政サービスの中には、同じ申請でも都道府県によって要件や添付書類が異なるものがあります。
例えば建設業許可。A都道府県では、正本と副本の両方に委任状が必要で過去の建設業許可書を提示しなければならない。B都道府県では、副本の委任状はコピーで過去の建設業許可書を提示しなくてもよいとされています。他にも古物商の免許、行政書士への登録も都道府県で提出書類が異なります。
この様な、都道府県や市区町村での独自ルールを設けていることがよくあります。
これは、法律違反というわけではなく、法律で大きな枠組みを作って各自治体の実態に即して申請書や確認書類を定めるように定めているからです。
複雑で毎年変わる税制
日本は所得税や消費税、関税、印紙税、固定資産税など40を超える税金の種類があります。
2019年の消費税の税率の変更がわかりやすいですが、控除の仕組みや対象を考えるとほとんどの法律で毎年変更があります。
もしシステムを構築しても、毎年改修したり、条件によって場合分けがたくさんあり誰もが利用できるようになるには難しいことが現状です。
日本のような大きな政府では実現しにくい
日本のように人口が多く、地方自治体に分かれている状態ではなかなか電子政府化は進みにくいでしょう。
行政書士の仕事はどうなのか
行政書士の仕事も事務手続きがほとんどです。
無くなっていく仕事なのでしょうか。
様々な定形ソフトが出てきている
一般の人には複雑で書けない申請書(建設業の許可や会社の設立等)が簡単に作成できるソフトが発売されています。
ただし、ほとんどの場合、税理士や行政書士等の専門家のために開発されており高額です。
これは、毎年制度が変更になった場合のバージョンアップや、ソフトのサポート窓口、開発資金にお金がかかるため。一般の方が年に一回や数年に一回だけ使うために購入しても費用に対するメリットがあまりにも少ないです。
全国で統一した簡単な制度になれば、開発費用やバージョンアップの回数が少なくなり普及していくかもしれません。が、日本では後付けで改正が行われているのでドンドン複雑になっているのが現状です。
いまでも仕事は増え続けている
他のページでも書いていますが、行政書士の仕事は増え続けています。
例えば法務局の遺言書保管制度(申請は本人です)やドローンの飛行許可等です。
遺言書保管制度の申請は本人ですが、この制度を利用するため遺言書の書き方を知りたい人や、テレビやイベントなどでドローンを飛ばしたい事業者など新しい制度が始まればそれだけお客さんが増えていきます。
これが行政書士の一番の強みです。法律が新設されたり法改正があるたびに業種が増える可能性があります。
その他にも毎年年間70件を超える法律が改正され新たに交付されています。
すべてを政府が電子化するには交付の時点で統一した様式を作成し全国どこでも申請が行えるようにしなければなりません。
法改正のたびに修正をしていく必要があります。
正直手間やコストがかかり現実的ではありません。
遺言や相続などコミュニケーションが必要な仕事もたくさんある
最初に紹介した無くならない仕事はコミュニケーションが必要な仕事といいました。
建設業許可や会社設立、定款認証はほとんどの場合要件がそろっていれば機械的に申請書を作ることができます。
しかし遺言や相続、帰化申請など依頼者と行政とコミュニケーションが大切です。
遺言や相続をするとき、ほとんどの方は法定相続分通りに残さないケースがほとんどです。
事情は個々によってさまざま、「長男は結婚式の費用を出してあげた」「末っ子が老後の世話をしてくれた」等々。
このような事情は遺言に付言事項として残すことができます。
より依頼者さんの気持ちを汲み取れるように遺言書の内容を考えていきます。
これは、ITが苦手とするところです。
まとめ
士業がITに仕事を取られるには抜本的な法律の整備が必要で、今のような大きな政府ではまず不可能に近いでしょう。
また簡単な申請書が電子化されても、コミュニケーションが必要な仕事もたくさんあり行政書士の必要性はかわらないでしょう。
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